危険なルックス

「どうぞ。とりあえず支店長からお話があるので応接間に」

 

 

目の前の新人くんにドキドキと心臓がうるさいけど、そんなの知らん振りしてやりすごすんだ。

 

 

いつも、顔から好きになる私とは決別。

 

 

異性を、見た目だけで恋愛対象か否か決めてしまう私はもういない。

 

 

 

古くて重いドアを両手で押さえ新人くんを招きいれると、私の頭上から長い腕が伸びてきた。

 

 

「ありがとうございます」

 

伸びた手で、逆にドアを支えてくれた。

 

 

気が利くな。

 

いい子そうだし、うちの新人は当たりだな。

 

 

「とりあえず、そこがトイレで、シュレッダーがあそこで・・・」

 

 

目に付いたもの、必要なことを教えたのだけれど、

 

はい。はい。と歯切れのいい返事をしながらニコニコと後ろをついてくる新人くんに、私の後姿が緊張してしまう。

 

 

営業間に戻ると、まず男性陣が新人くんにどよめいた。

 

続いて、ロビー側を向いていた女性たちが一斉に回れ右をして、ごくごく小さな悲鳴を上げた。

 

 

いい大人でこれだから、女子高生、女子大生なら黄色い悲鳴だっただろうな。

 

 

支店長。と目配せをして、私は席に戻ろうとした。

 

あと10分弱で9時か。

 

 

「蒼井さん、コーヒーお願い」

 

「・・・はい」

 

 

私のも入れて、給湯室で飲もう。

 

いただき物のドリップコーヒーを3人分淹れて、そのうち2つをソーサーに乗せ、スティックシュガーとミルク、スプーンを添えた。

 

 

左手にお盆。

 

慣れた手つきで応接間をノックして、ドアを開けた。

 

 

「失礼します」

 

「ありがとう」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

 

黒い本皮の2人掛けのソファーに、どっしりと体を預けるように腰掛けている支店長とは対照的に、

 

木製のローテーブルを挟んで向かいに遠慮気味に腰掛ける新人くんは、座っていても麗しい。

 

 

カチャ・・・・

 

 

2人の視線を感じながら、そ知らぬ顔でコーヒーを置いて「失礼します」と退室する私に、支店長が声をかけた。

 

 

「早瀬君の指導をよろしく。といっても早瀬君には融資係をしてもらうから、預金係の蒼井さんは、庶務の指導を。昼休憩も出来るだけ一緒に上がって、業務以外のことも教えてあげて」

 

「はい。わかりました」

 

 

早瀬君と目が合い、お互いニコっと笑顔を作って、私は部屋を出た。

 

”庶務”だなんて聞こえはいいけど、言ってしまえばいつもの雑用。

 

 

あんなイケメンくんと狭い粗品保管室なんていられない。

 

危険なオフィスラブ!?

 

 

なんて、バカげた妄想をしつつ、少し冷めたブラックコーヒを口に含んだ。この苦味がたまらなく好き。

 

新人の頃は苦手だったのに、と少し心がチクンと痛む。

 

 

この苦味と痛みで、私は現実に引き戻された。

 

 

 

顔のいい男は絶対好きにならない。

 

 

再確認というよりも、再度、決意した。

 

今度好きになる人は、顔なんて二の次で。まじめで、実直で、浮気なんてしない、私だけを愛してくれる人。

 

 

だから私は、ルックスのいい早瀬君にドキドキしても好きになったりしない。

 

彼のことは、目の保養にさせてもらおう。

 

 

席に戻ると、待ってましたと言わんばかりにパートさんたちの質問攻めだ。

 

 

 

「ちょっといいですかー」

 

 

私が口を開きかけたとき、応接間から出てきた支店長が声を張り上げた。時間の都合で少し早口だ。

 

 

「新人の早瀬くんだ。時間がないから一言だけ挨拶を」

 

 

支店長に促された早瀬君は、ためらいもなく挨拶を始めた。

 

凄いな。初日から、堂々としてる。

 

 

 

「おはようございます。早瀬 樹と申します。とにかくがんばります。ご指導、よろしくお願いします。時間がないのでこの辺で」

 

 

笑いを交えたその挨拶は、程よい声のボリュームと低音で。

 

『ハヤセ イツキ』

 

 

パチパチと拍手をするパートさんはもちろん、男性社員まで拍手と笑顔で彼を受け入れた。

 

 

 

「早瀬君はこの席ね。なんだけど、先にシャッター開けよう」

 

 

早瀬君に声をかけ、ロビーに向かった。