今恋人がいない

 

「美男美女だねー、蒼井ちゃん、いいんじゃない?」

 

「やめてくださいよ。早瀬くんが困ってますよ」

 

 

 

確かに。新人の早瀬君と蒼井さんは、実に絵になる。

 

 

「うちもまたバイトが増えたから、ふたぎんの口座に給料振り込みさせるから」

 

「いつもありがとうございます」

 

「今度は二人で、仕事帰りに廃棄弁当とりにおいで」

 

「オーナーさん。声大きいですって、あのでも、ありがとうございます」

 

 

廃棄弁当貰ってるのか?

 

 

 

戻ってきた早瀬くんに、「気が利くね。」と、一声をかけた。

 

「いや、重そうだったんで。それにしても、蒼井さんのところにばっかり客が集中してますね」

 

 

再びペタペタを始めた彼は、混雑しているロビーに目をやる。

 

 

コンビニ経営者が去った今、蒼井さんの前には、小さな女の子を抱いた30代前半くらいの女性が立っている。

 

 

「お子さん今おいくつですか?」

 

彼女の問いかけで、無表情だった女性が笑顔になった。

 

 

この席からは、女性の声は聞こえない。

 

「おめでとうございます。もうすぐですね」

 

 

ここからが、彼女の凄いところだ。

 

「早瀬くん、蒼井マジック始まるわよ。営業トーク勉強しなさい」

 

 

 

勉強が必要なのはわたしもだ。

 

『お子様のための貯蓄はされてますか?』

 

 

『ですよね、不安定な収入だったら難しいですよね。でも、だからこそ、毎月少しずつでも貯めていかれたらどうですか?学資保険について、ご存知ですか?』

 

 

うーん、と考える女性に抱かれた子どもの小さな手を握って、蒼井さんは穏やかな笑顔を浮かべている。

 

 

『お悩みなら、始めてみませんか?』

 

 

背後から見ていても、契約がとれたことがわかる。

 

蒼井さんのほうが後輩なのに、流石だわと思ってしまう。

 

 

『ありがとうございます。こちらの書類にご記入ください』

 

 

お客からは見えないところにある書類ケースから、3枚複写の書類を取りだし、備え付けのボールペンを手渡したのだ。

 

 

「蒼井さん、本当は子ども苦手なのよ」

 

「えっ?マジですか」

 

「それにしても凄いっすね。もうローンのパンフみせながら説明してますよ、今」

 

「彼女凄いのよ。でももちろんこっぴどく断られることもあるから」

 

「この支店って、番号札制度いつ廃止したんですか?」

 

「蒼井さんが窓口担当になってからだけど?」

 

「やっぱり。集客率上がったでしょうね。見抜いて決断した上司も凄いですね」

 

 

いや、そのことにすぐ気付いたあんたもなかなかね。

 

 

早瀬くんのポイントが更に加点された。

 

「余談だけど、蒼井さん今恋人いないよ。余談だけど」

 

 

君の恋人の有無について、興味はないが。

 

私の発言を受け、フレッシュマンが「へえ…」とつぶやく。

 

 

「あなた、顔緩んでるわよ?」

 

「そんなことないです」

 

 

これ以上無駄話しません、とでも言うように、再びペタペタ始めた彼は、どこからどうみても、間違いなく蒼井さんの好みのタイプだ。

 

 

 

顔のいい男は、もう好きになりません。

 

 

彼女はそう言っているが、人間の本質なんてそんな簡単に変わるわけがない。

 

 

 

 

???散々蒼井さん分析をした私はというと。

 

 

恋人いない歴=年齢

 

 

ファッションに興味なし。

 

 

人との関わりが苦手で、窓口担当ではなく後方事務専門だ。

 

後方で、黙々と仕事をこなしていくのが向いている。

 

 

だから支店内の、ややこしい複雑な事務を一手に引き受けるのだ。

 

蒼井さんや、他のパートさの手に負えないような仕事。

 

 

 

人間誰しも向き不向きがある。

 

 

 

蒼井さんのような、日向の人間をうらやましく思うことはあるが。

 

 

私は私なのだ。